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熱中症対策に適した仕事服の色を解説
屋外・屋内を問わず、仕事中でも熱中症になるリスクは常に潜んでいます。
厚生労働省は、高温多湿環境になりやすく、勤務中の熱中症発症リスクの高い職種として、建設業、製造業、運送業、警備業、商業、清掃業、屠畜(とちく)業の6つを挙げています。
また、厚生労働省の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、仕事中に熱中症で亡くなった方の数は2012~2021年の累計で213名となっています。
本記事では、熱中症の対策として、熱中症についての解説の他に、「仕事服の色」という観点から、熱中症リスクを回避する方法をお伝えしています。
この記事をきっかけとして、あらためて熱中症に備えてみてください。
熱中症について
そもそも熱中症とはどのような症状のことを指すのでしょうか。
熱中症とは
高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指します。
熱中症の症状は、その重さによって、以下の3段階に分けられます。
Ⅰ度:現場での応急処置で対応できる軽症
脳への血流が瞬間的に不充分になることを示す。たちくらみ。熱失神。
発汗によって塩分(ナトリウムなど)が不足し、筋肉が「こむら返り」を起こす。
Ⅱ度:病院への搬送を必要とする中等症
体がぐったりする、力が入らないなどの症状。
「いつもと様子が違う」程度のごく軽い意識障害がある場合もある。
Ⅲ度:入院して集中治療の必要性のある重症
呼びかけや刺激への反応がおかしい。
体にガクガクとひきつけ(全身のけいれん)がある。
まっすぐに走れない、歩けない。
体に触ると熱い。いわゆる熱射病、重度の日射病。
熱中症はどのようにして起こるのか?
熱中症になってしまう要因は、以下の3つにあると考えられています。
要因その1 環境
要因その2 からだ
要因その3 行動
以上の3つの要因が揃うと、熱中症に繋がる可能性があります。
熱中症を防ぐには
では、熱中症を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
のどが乾いている時はもちろん、乾いていない時でも、こまめに水分を取ることが大切です。また、大量の汗をかくと、水分だけでなく塩分も失われます。毎日の食事の中でほどよく塩分をとるようにする他、スポーツドリンクなど塩分や糖分を含んだ飲料で、適度に塩分を取りましょう。
ただ、過度な塩分の摂取は禁物です。かかりつけ医などから摂取制限が出されている時は、その指示に従ってください。
高温の場所に長く身を置くと熱中症の原因となります。室内であれば、扇風機やエアコンで室温を適度に下げる、室外であれば帽子や日傘などで、直射日光を避けるようにしましょう。
冷却シートやスカーフ、氷枕などの冷却グッズも熱中症対策には有効です。特に、首元など太い血管が体の表面近くを通っているところを冷やすと、効率よく体を冷やすことができます。
衣服を工夫することは、暑さの調整に効果的です。たとえば、麻や綿など通気性のよい生地を選んだり、吸水性や速乾性にすぐれた素材のインナーを選ぶことで、暑さを和らげることができます。
衣服でできる工夫は、実は素材だけではありません。衣服の色も、熱中症対策に大きな影響を与えます。
衣類の色と温度との関係
衣類の色と、温度にはどのような関係があるのでしょうか。
2020年度日本地理学会春季学術大会にて、国立研究開発法人国立環境研究所の一ノ瀬俊明氏が発表された「最小スケール気候変動適応策としての被服色彩選択効果について」によりますと、次のような実験結果が出ています。
色による表面温度の違い
実験では、黒、紫、深緑、緑、青、赤、黄、グレー、白という9色のポロシャツを用いました。これらのポロシャツは素材もサイズも共通しており、色だけが異なっている状態です。
このポロシャツを風がほとんどない気温30℃の屋外で5分間放置して、それぞれの表面温度が時間の経過に伴ってどのように変化をしたのか比べてみたところ、白のポロシャツの表面温度が気温と同じ30℃だったのに対し、黒や深緑のポロシャツは50℃を超えたとされています。
その差は最大で約20℃。つまり、衣服の色だけで表面温度にこれだけの差ができるというわけです。また、黒や深緑だけでなく、青や紫、緑のポロシャツも45℃近くまで表面温度が上がったそうで、熱中症のリスクがある場合、着る服の色にも注意した方が良いことが、この実験からわかります。
なぜ、色によって表面温度に違いがでるのか?
ではなぜ、色によって表面温度に違いが出てくるのでしょうか? その理由は、太陽光を吸収する量・反射する量が色によって異なるためです。
地上には、「放射エネルギー」という、様々な波長のエネルギーが太陽から届いていま
す。この波長は目には見えませんが、波長が短いものほど、エネルギーをよく吸収します。
ポロシャツの実験で明らかになったように、黒や緑はこのエネルギーを反射せずに吸収し、次いで青、緑、紫、と順に反射の度合いが上がっていきます。さらに、赤、グレー、黄、と順に反射の度合いが上がり、白になるとエネルギーのほとんどを反射していることがわかります。
人工光の場合はどうなるのか?
ここまでは太陽光における実験結果を見てきましたが、では、人工の光の場合はどうなるでしょうか。
ユニフォームメーカーのアイトス株式会社では、複数の色の仕事服を光に当て、仕事服内の温度や、仕事服表面の温度を確認する実験をおこないました。
実験に使用した色は、ブラック・ネイビー・ロイヤルブルー・チャコール・レッド・ライム・シルバーグレーの7色です。マネキンにユニフォームを着用させ、肩部エリアに人工光を15分当てた結果は、下記の表のようになりました。
まず表面温度は、ブラックが15分後に61.3℃を記録し、もっとも温度変化が大きくなりました。
次いで、ネイビー、ロイヤルブルー、チャコール、レッド、ライムと続き、シルバーグレーが温度変化の幅が最も少ない50.7℃という結果になりました。
では、服の内側はどのようになったのでしょうか。
こちらも温度変化が一番大きかったのはブラックで、光を当て始めてから5分ですでに50℃を超え、15分後には68.6℃を記録します。
一方で、シルバーグレーは5分経過時の温度が45.0℃。この時点でブラックとの温度差は5℃ほどあります。この温度差は時間の経過とともに広がっていき、15分後には約8度の差ができていました。
なお、温度変化の大きかった色の順は、以下の通りです。
ブラック>ロイヤルブルー>ネイビー>レッド>チャコール>ライム>シルバーグレー
この結果から、ネイビー、レッド、チャコール、ライム、に順序の入れ替わりが若干あったものの、太陽光の際と同じように、黒や青系は熱を吸収しやすく、黄やグレー系は熱を吸収しにくいということがわかりました。
熱中症対策になる服の色
仕事服は傷や汚れを目立たせたくないという理由から、白やグレー系よりも黒や青系の色を選ぶことが多いのではないかと思います。しかし黒や青系の服は熱を吸収し、体感温度を上げてしまうことが、実験結果を見るとよくわかります。
熱中症にならないように「環境」「からだ」「行動」の面から対策していくことはもちろん重要ですが、その中の1つとして「服の色」を加えることをぜひおすすめいたします。
最も光による熱を吸収しにくいのは「白」ですが、グレーや黄、赤でもその効果は期待できます。
ぜひ職場環境に合わせて、仕事服の色を選んでみてください。